ボケ父が入院している病院へ着いたのは、午前8時の少し前でした。
初めて降りる駅で、病院が駅から少し歩き、大雨で焦っていたのもあって、途中道に迷いました。
駅からはタクシーに乗るつもりだったのですが、駅前にタクシー乗場が無かったのです。
とにかく、遠い病院でした。
病院の入口に近付くと、守衛さんから「ティー子さんですか?」と声をかけられ
病棟から話がついているようで中に通されました。
病院の入口には、
「コロナ感染拡大予防の為、面会禁止。患者様ご本人以外の許可の無い立入りは禁止いたします」という大きな立て看板がありました。
病院は、日曜で休診日なのもあって中は真っ暗で、ほとんど人はいませんでした。
守衛さんの案内に従って、エレベーターで上の階にあがると、
降りたところに看護婦さんが立っていて、挨拶やボケ父の病状を聞く間もなく、
いそいそとボケ父のいる病室へ連れて行かれました。
入院の病棟には、患者さん、看護師さんと それなりに人がいて、
ちょうど朝食の時間帯だったらしく、慌ただしい雰囲気でした。
私と母の前を歩いていた看護婦さんの足が、ある病室の前で止まり、
「この部屋の、奥の右です。どうぞお入り下さい。」と言われ、
ボケ父のベッドまでは先導してくれず、そこからは母と私だけで歩いて行きました。
部屋は4人部屋で、どのベッドもカーテンが閉められていましたが、人のいる気配はありました。
それで、ボケ父のベッドにあたる仕切りのカーテンをそっと開けると、
ボケ父が、酸素マスク等をつけず、仰向きで横たわっていました。
それは、私にとっては4年ぶりに見るボケ父の顔でした。
ボケ父が4年前に、医療保護入院で精神病院の認知症病棟へ入った時以来です。
母は、その後入居した老人ホームへ面会に行っているので、
コロナ禍で老人ホームが面会禁止になって以来の、1年ちょっと振りかな。
ボケ父の枕元にはモニターがあって、脈を表す波形がありましたので。。。
(寝てる? 持ち直した? どっちなの?)
母と私、なんとも判断できず、無言で顔を見合わせました。
ボケ父が今、どういう状態なのか分からず、母と私、何も言えず立ち尽くしていると
看護婦さんが後ろからやってきて、
「ボケ父さんね、電話した少し前から息と脈が浅くなってねー。
今はこういう状態なんですよ。」
と、モニターに近付くと画面を切替え、横棒一線の脈の画面を見せました。
(あ、終わったんだ。)
そこでようやく理解して、母と私、顔を見合わせ同時に小刻みに頷いて、
看護婦さんへもその顔を向けて
小刻みに頷いて、「分かりました。」という意思を伝えました。
正直、終わった、ホっとした。というのが第一の感情で、
悲しいとかそういうのは一切ありませんでした。
でも、ボケ父の臨終は望んでいた事ですが、嬉しいという気持ちも無かったですよ。
ただただ、「これで終わった。」という、後日持ち越ししなくて済むという、
白黒ついてホっとした気持ちでした。
(次へ続く)
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